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魔女に与える鉄槌

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10,000,000円

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不明

アイテム説明

『魔女に与える鉄槌』(まじょにあたえるてっつい、ラテン語題: Malleus Maleficarum)は、15世紀末にドミニコ会士で異端審問官であったハインリヒ・クラーマー(ハインリクス・インスティトリス)によって著された魔女に関する論文である。中世ヨーロッパにおける魔女狩りの概念を体系化し、当時の教会法や異端審問の手続きと結びつけることで、魔女をいかに発見し、どのように処罰すべきかの詳細な指針を提示しているとされている。

本書は1486年頃に執筆され、1487年にはドイツのシュパイアーで最初期の印刷版が世に出たと言われている。序文に教皇インノケンティウス8世の回勅が添付されていることによってあたかも教皇の全面的な承認を得ているかの印象を与えるなど出版戦略も巧妙で、さらに当時普及し始めていた活版印刷技術の影響も相まって、ヨーロッパ各地に爆発的に流通した。フランス語版やドイツ語版、イタリア語版など多数の言語に翻訳され、1669年頃までに合計30版以上が発行されたとされている。

本書の要点は主に三部構成からなる。第一部では魔女の定義や魔力への認識を説き、第二部では魔女が行うと信じられた悪行や、産婆との関係が頻繁に疑われた点などを具体例とともに列挙した。第三部では魔女裁判の進め方や拷問手法、ときには如何に罪を自白させるかといった裁判官の行為指針を克明に示している。これにより、“魔女狩り”の実践的なハンドブックとしての役割を果たし、多数の者を異端として処刑・追放へ追いやる一つの大きな呼び水になったとも言える。

なぜ本書が当時かくも巨大な影響力を持つに至ったかは、複合的な要因が指摘されている。まず、15世紀後半からの酷寒(小氷期)や度重なる疫病の流行などによって社会不安が高まるなか、人々が“悪しき存在”に原因を求めやすい風潮にあったことが大きい。さらに当該時期における教皇庁の体制により、異端への取り締まりが神聖な使命として強調されていたため、クラーマーが強く主張した“魔女は現実に存在し、重大な脅威である”という論説が広く受け入れられたと推測されている。

現代から顧みると、多くの誤認や強引な断罪が行われたことは確かであり、歴史的な悲惨さを強調する文脈で言及されることも多い。一方で、この書物は中世終盤から近世にかけての“異端審問”や“魔女裁判”の実相を浮き彫りにし、当時の社会背景・思想・司法制度・宗教観を読み解くうえで欠かせない一次資料の性格を持つ。オークションや古書市場においては、その歴史的・学術的価値も手伝い、当時の版本は極めて高額で取引されるケースがあると言われている。

本書は魔女=女性を中心とした偏見を助長したとして強い批判も受けているが、同時にヨーロッパ史上の暗部を示す象徴的な書物でもある。魔女狩りにおける過剰な恐怖と苛烈な排除の論理を示すこの書物は、後世において一種の“反面教師”として引用され続け、西洋史や思想史を研究するうえでも重要な研究対象であるとされている。

総評

『魔女に与える鉄槌』は、当時の宗教的熱狂と社会不安を背景に大きな影響力を及ぼした歴史的文献である。魔女裁判の制度化を後押しし、数多くの冤罪や悲劇を生み出してしまったという負の遺産を持つ一方、その存在は中世末期から近世初頭の思想や宗教政策を探究するうえで欠かせない資料となっている。原版や初期の印刷本は現存する数が限られており、学術的にもコレクター的にも極めて希少な価値を有する、まさに歴史を証言する遺物である。