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シオン賢者の議定書

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アイテム説明

概要

『シオン賢者の議定書』は、20世紀初頭にロシアで出回り始めた反ユダヤ主義を煽る偽書であると言われている。内容は、ユダヤ人の長老や賢者が世界征服を企てる陰謀の記録とされ、世界を操作するための政治・経済・メディア支配が具体的に述べられていると主張している。しかし、実際には他著作からの盗用や過剰な脚色が多数確認されており、歴史的に見ても根拠のない捏造文書であると複数の調査で繰り返し指摘されている。

1903年にサンクトペテルブルクで新聞に部分的に掲載されたのをきっかけに、ロシア革命期の混乱と併行してヨーロッパやアメリカへと広まっていった。出版された当時、ロシア国内務省警察部の秘密警察(オフラーナ)が反ユダヤ感情を利用するために関与したのではないかとも言われる。1920年代には英語やフランス語、ドイツ語、ポーランド語など各国語で相次いで翻訳・出版され、広範囲に流布するとともに、ユダヤ人に対する差別や嫌悪感情を大衆に植え付ける格好の道具として使われた。また、自動車王ヘンリー・フォードが『国際ユダヤ人』の中で一部を紹介したことや、ナチス政権下でも反ユダヤ政策のプロパガンダ材料として採用されたこともあり、「世界を支配するユダヤの陰謀」を証拠づける文書として扱われる場面が長らく続いた。

しかし1921年にイギリスの新聞「ロンドンタイムズ」が徹底的な調査記事を発表し、『シオン賢者の議定書』がモーリス・ジョリーの『マキャベリとモンテスキューの地獄での対話』(1864年刊)などの文面を丸写しし、ユダヤ人に当てはめる形で改変された虚構文書であることを暴露した。その後、アメリカの上院司法委員会やスイス、ロシアなどでの裁判でも根拠がない捏造物として公式に判断されている。また同書は具体的にユダヤ人の指導者会議や密約の記録を示すものではなく、歴史資料としても疑わしい点が多い。これほど根拠が脆弱でありながら、排外や憎悪をかきたてる意図で再版が繰り返され、インターネット時代になってからも反ユダヤ主義者や陰謀論者の手段として都市伝説的に利用され続けている。

ユダヤ人に対する差別や偏見は中世ヨーロッパに根があり、その中で『シオン賢者の議定書』は「ユダヤ人陰謀論」を象徴する文書として位置づけられる。宗教や民族に根差す問題がからむため、一部の人々は事実無根であると分かってもなお排他的な思想を後押しする隠れ蓑として使い続けてきた。今日では多くの歴史学者が、同書が偽書であることを異口同音に検証しており、ユダヤ人陰謀説そのものの虚構性も国際的に認識されている。にもかかわらず、オンライン上では原文の翻訳・コピーが拡散され続け、一部の国や地域では政治的・社会的に利用される場面も見られる。

そのため、『シオン賢者の議定書』は単なる書籍というより、歴史的経緯の中で反ユダヤ主義を煽る象徴的な「文書」として扱われている。紙の1冊としては容易に入手できる複数の版が存在するため、古書であっても極めて高額になることは少ない。ただし、初期出版のロシア語版や特異な地域で印刷された希少版などは一部コレクターの関心を集めるケースがある。いずれにせよ学術的価値は偽書ゆえに乏しく、その歴史的背景を理解する上での警鐘として読む資料的価値が認められる。

総評

『シオン賢者の議定書』は、歴史的・政治的に大きな影響を及ぼし、今なおインターネットを介して陰謀論の題材として利用され続けている。ユダヤ人迫害やホロコーストの遠因となったとされるなど、反ユダヤ主義史研究で無視できない文書であることは間違いない。一方で、その正体は他書からの盗用や誇張に基づく「偽書」であり、唯一定着した史料的根拠を示すものではない。同書を手掛かりに近現代の差別や偏見の拡散のあり方を学ぶことは、思想的過激化やデマの広がりを防ぐうえでも重要だと言える。