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肋骨レコード

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Level

取引価格目安

100,000円

所有者

不明

アイテム説明

肋骨レコードとは

第二次世界大戦直後から1960年代にかけてのソビエト連邦で、レントゲン写真フィルムを再利用して作成されたソノシート形式のレコード盤である。そこには肋骨や頭蓋骨など骨格の映像がそのまま残っており、当時の住民の胸部X線写真を再利用することが多かったため「肋骨レコード」や「骨の音楽」と呼ばれるようになった。いわゆる禁止された西側諸国のジャズやロックンロール、さらにはソ連国内でも当局に敵視されていた音楽家の作品などが、正規の販売ルートでは絶対に手に入らない代物として人々に密かに流通したのである。

これを可能にした背景には、ソ連政府による徹底的な検閲と、いわゆる“鉄のカーテン”による文化的統制があった。西側のアーティスト――エルヴィス・プレスリーやビートルズ、またソ連国内でも当局から「反体制的」だと判断されたアーティスト――こうした音楽は放送や正規のレコード販売を禁じられていた。その一方で、若者や音楽ファンの間では「どうしても聴きたい」という情熱が高まり、レッグマンたちは禁制の音楽を手製レコードに刻むことで裏市場での売買を成立させていた。これには中古のレコード製作機械と大量のレントゲン写真が用いられ、ディスク状に切り出し、中央に穴を空ける作業をタバコの火で行うなど極めてアナログな手法が取られた。

レントゲン写真が選ばれた理由は、それが定期的に廃棄される上に極めて安価で大量に流通していたからである。ソ連の医療システムでは結核対策などのため、国民が頻繁にX線を撮ることが義務付けられていた。その結果、生み出された膨大な使用済レントゲンを、病院から無償または極めて低価格で手に入れることができた。そして、薄手のプラスチック製フィルムはニードルで溝を切るのにも適しており、最低限の音質であれば録音できる素材だったのだ。完成した肋骨レコードは通常のビニール盤よりも耐久性が低く、5回から10回程度しか満足に再生できなかったと言われるが、それでも一般の人々が音楽を所有できる手段としては画期的な存在だった。

一方で、この密造行為は国家によって厳しく取り締まられ、実際に逮捕され投獄された製造・販売者も少なくない。中には「グラグ」と呼ばれる強制収容所に送られた例もあるという。しかし、西側のロックやタンゴ、ジャズ、そして当局にとって「危険視」された歌手の作品を求める需要は絶えなかったため、肋骨レコードという文化は細々と地下で生命を保ち続けた。やがて1960年代後半に入るとカセットテープやメロディア(国営レーベル)の台頭により、より鮮明な音を手にしやすくなり、肋骨レコードは姿を消してゆく。

しかし現代では、ソ連時代を象徴するアンダーグラウンド文化の遺産として再評価が進んでいる。近年では“X-Ray Audio Project”と呼ばれる研究・展示が行われたり、ディスクユニオンなどでも実物展示や販売が注目されたりしている。原料となったレントゲン写真には患者の胸骨や頭骨が写っており、同じものは二つと存在しないゆえに、そのユニークさと反骨のストーリーが相まってコレクターの間では非常に高い人気と希少価値がある。ビートルズやエルヴィスの音源を収録したものなど、状態の良い一点物になると高額で取引される場合も珍しくない。

総評

肋骨レコードは、鉄のカーテンが下ろされていた時代のソビエト連邦における人々の音楽への情熱を、まさに“骨”そのものに刻み付けた歴史的アイテムである。検閲から自由を奪われた音楽が、レントゲン写真という素材を通じて再生産され、欲する者に届けられていたその背景には、単なる音楽産物の枠を超えた抵抗の物語が浮かび上がる。少々荒いサウンドと限られた再生回数という弱点はあれど、背後にあるヒリヒリするような文化闘争の熱気を体感できる芸術品でもある。現代の視点から見ると、このレコードの独特な外観や希少性、そして貴重な歴史証言としての価値から、ますますプロフェッショナルやコレクターの注目を集めていると言えよう。