死後写真

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アイテム説明
死後写真とは、亡くなって間もない故人の姿を撮影する風習や、その風習に従って実際に撮影された写真を指す概念である。19世紀のイギリスやヨーロッパ諸国を中心に実在した文化で、当時は写真そのものが非常に高価であり、限られた手段であったため、こうした形で最後の姿を残す行為が行われていたと言われている。もともとはダゲレオタイプ(銀板写真)の発明に伴い、一般家庭でも肖像を残せるようになったことが背景にある。とくに19世紀前半は乳幼児の死亡率が高かったことから、子どもの死後写真が数多く残されており、それらは皆が故人を偲ぶ大切な形見となった。
写真の中では、生前の服を着せたり、起き上がった姿に見えるように工夫したり、椅子に座らせるなどの演出も行われた。さらには目を描き足して撮影し、故人があたかも生きているかのように見せる技術的工夫も生まれたのである。その理由としては、生前の写真が一枚も残っていなかったり、家族が医療機関や都市部の遠隔地で亡くなったりして、死別に立ち会えなかった親戚や知人に故人の最後の姿を伝えたりする必要があったことが挙げられる。当時は死が身近な存在であり、死はタブーというよりも家族や近所一体で見送る行為と結びついていたと考えられる。
しかし20世紀に入ると、医療の進歩や都市化の加速に伴い、死はしだいに病院で迎えるものとなり、死者を撮影することへ抵抗感が広がるようになった。実際に現代の価値観では、死後写真はタブー視されるケースが多く、SNSなどで故人と一緒に撮影した写真が投稿されると「不謹慎」であるとして炎上する事例も散見される。一方で、19世紀の社会情勢を鑑みれば、生前の姿をほとんど残すことのできなかった時代において、家族が故人の面影を少しでも手もとに置いておきたい、という切実な思いがこうした風習の原動力となっていたことがうかがえる。
近年では考古学的・文化史的な視点から再評価されることも増え、展覧会や研究書などで取り上げられる例もある。グリーフケアの一環として、死後の姿をあえて写真に収めることで気持ちの整理をつけるという捉え方も議論されている。図像学的な研究だけでなく、モノとしての写真や収集品として取り扱うケースも見受けられ、海外のアンティークショップなどでは当時撮影された死後写真がトレードされることもあると報告されている。
このように死後写真は歴史的には珍しい習慣というわけではなく、社会的な背景や人々が抱えた死への愛情表現から生まれた文化だと言えよう。現代日本では抵抗感のほうが大きいが、かつては家族の思い出を刻む貴重な方法であった。別れの瞬間にどう向き合うか、故人をどう偲ぶかという命題は時代を越えて普遍的なテーマであり、死後写真はそのひとつの答えだったのである。
総評
死後写真は、19世紀の欧米で広く行われていた風習であり、現代とは異なる死生観のもとで生まれた文化的所産である。死が身近であったころに「最後の姿を写真に収める」という行為は、残された遺族にとってかけがえのない『思い出』を作り出すものであった。今日では再評価の機運も高まり、学問的関心やコレクターによる需要も見られるが、依然としてタブー視する声も根強い。死後写真は、死者と生者をつなぐ儀礼的な意味合いを持ち、当時の人々の深い愛情を映し出す鏡のような存在である。