チェルノブイリの象の足

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所有者
ウクライナ政府
アイテム説明
概要
チェルノブイリ原子力発電所の事故(1986年4月26日)によって溶融した炉心の残骸が固まった、巨大な燃料溶融物(FCM)のひとつである。事故発生から約8か月後に発見され、その見た目が動物のゾウの足に似ていたことから「象の足」と呼ばれている。主成分は二酸化ケイ素や黒鉛、ウランなどで、崩れた原子炉建屋のコンクリートや金属も混じっている。1986年当初は周辺で毎時8,000レントゲンもの非常に強い放射線を放っていたとされ、5分程度の滞在でも人命に深刻な危険が及ぶほどの高い放射能を持っていた。長い年月を経て放射線量は徐々に減衰しているが、現在でも極めて強い放射能を帯びた存在として知られている。
チェルノブイリ原子力発電所4号炉で発生した爆発と火災により、大量の放射性物質が大気中に放出された。溶融燃料が黒鉛や砂、蛇紋岩、炉内構造物を巻き込みながら固化してできた物質がFCMであり、そのうちの一部が「象の足」である。硬度と密度が非常に高く、遠隔操作のドリルではサンプルを得られず、当初はライフル銃を用いた破砕が行われたエピソードもある。発見時点では建屋内部をさらに浸食し続けるおそれが懸念されたが、最終的にはコンクリートを深く貫通することなく冷え固まった状態に近いといわれる。
事故発生後のチェルノブイリ原子力発電所内部は「石棺」や「新安全コンファインメント」によって外部への放射線を遮蔽しようとしてきたものの、内部には今なお高濃度の放射能を持つ溶融残骸が多数存在する。象の足はその象徴的存在であり、極度に危険な現場とされる場所に人為的にアクセスできる数少ない実例である。観測や研究は遠隔装置などを用いて継続されているが、近づくこと自体がはらむリスクは大きい。
さらに、チェルノブイリ周辺の立ち入り禁止区域では、劣化した燃料デブリを今後どう扱うか、解体や封じ込めの技術をどのように発展させるかが課題となっている。福島第一原子力発電所事故で生じた燃料デブリの処理にも、チェルノブイリの知見が一定の示唆を与えると考えられているが、象の足のような一例からも、このような超高放射能物質の取り扱いがいかに困難かが明らかである。
総評
チェルノブイリ事故の象徴ともいえる「象の足」は、世界的に見ても極めて危険かつ希少な存在である。事故の歴史や放射性物質の挙動を研究する上で重要な学術的価値を持つ一方、人の安全を脅かすリスクも抱える。チェルノブイリ事故の放射線被害や原子力使用の是非を考えるうえで、この物体は忘れてはならない教訓を示す代表例となっている。