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ベラスケスによるインノケンティウス10世の肖像画後の習作

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カテゴリ

art > 絵画 > フランシス・ベーコン

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取引価格目安

100,000,000円

所有者

不明

アイテム説明

【概要】

1953年にフランシス・ベーコンによって制作された油彩作品である。スペインの巨匠ディエゴ・ベラスケスが1650年頃に描いた『インノケンティウス10世の肖像』を下敷きとしつつ、ベーコンならではの凄絶な表現を加えたシリーズの代表例とされている。いわゆる「叫ぶ教皇」シリーズの中でも特に完成度が高いもののひとつとして知られている。

【作品の背景】

ベーコンは若い頃からピカソやエイゼンシュテインの映画『戦艦ポチョムキン』などに刺激を受けており、人間の内面に潜む恐怖や叫び、そして複雑に入り組んだ不安や孤独といった感情を描き出すことを生涯のテーマとしていたと言われている。本作もその流れをくみ、ベラスケスの教皇像とは大きく異なる、「口を開けて叫ぶ法王」の姿を描き出している。

原画となったベラスケスの肖像画は、もともとローマ教皇インノケンティウス10世を威厳ある姿で描いた名作である。ベーコンのアプローチは、その威厳をあえて崩し、縦方向に引かれたストロークや透明なカーテンのような筆致で教皇を分断し、口を開けて叫んでいるように描くことで、現代の不安や恐怖を「叫び」そのものとして提示している点に特徴がある。

【希少性・価値の高さ】

フランシス・ベーコンは20世紀後半の美術界を代表する巨匠とされ、本作のような象徴的なシリーズは広く国際的な注目を浴びている。1950年代以降にたびたび繰り返し描かれた「叫ぶ教皇」シリーズの中でも特に有名な本作は、ベーコン芸術の核心を示す重要作として扱われている。現在はアメリカのデモイン・アートセンターに収蔵されており、市場に出回ることがまずないため、その希少性と美術史的な価値は極めて高いといえる。

【歴史的経緯や背景ストーリー】

ベーコンが「叫び」を描き始めたきっかけに、映画『戦艦ポチョムキン』で乳母が叫ぶシーンや、ニコラ・プッサンの『罪なき人々の虐殺』が与えたインスピレーションがしばしば指摘されている。彼は宗教画や古典絵画を再解釈することで、見る者の精神に訴える強烈なイメージを生み出した。特に本作では、ベラスケスの肖像画が持つ荘厳さと権威を、激烈な「叫び」に置き換えることで、人間が抱える内面的苦悩や孤立感をあざやかに表現している。

叫ぶ教皇の姿には、「権力者が内心に抱える恐怖」あるいは「人間存在そのものの不条理の象徴」が指摘されることもある。原典であるベラスケスの教皇像は、教皇の冷徹さや鋭い政治感覚を見事に描いたとされるが、ベーコンにおいてはそれがさらなる形で増幅され、より根源的な恐怖や苦悩へと変換されたのである。

総評

ベーコンの『ベラスケスによるインノケンティウス10世の肖像画後の習作』は、歴史的巨匠による名作への強烈な応答という枠を超え、20世紀絵画を語る上で避けては通れない象徴的存在として認識されている。ベーコンはあえて伝統的な肖像表現を再構築し、その権威を大胆に脱臼させることで、人間の内面や世界の不安をむき出しの形で提示し続けた。本作が放つ凄絶な迫力は、芸術の歴史においても特筆すべきものであり、今なお多くの美術ファンを魅了してやまない。まさにモダンアートの深みに迫った傑作である。