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人間が人間でなくなるとき(写真集)

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カテゴリ

book > 写真集 > 大田昌秀

Level

取引価格目安

20,000円

所有者

書肆ゲンシシャほか

アイテム説明

概要

第二次世界大戦期をはじめ、世界各地で行われた大量虐殺(ジェノサイド)を中心に、戦争がもたらした残虐な行為を視覚的に捉えた写真集である。本書は、沖縄戦を体験した著者・大田昌秀が収集した膨大なフィルムや資料をもとに構成され、米国で入手したビジュアル記録も多く掲載されている。英文併記の形態を採用しており、国際的な視点でも戦争の実相を伝えようとする意図が感じられる。

本書に収録された写真は、沖縄・広島・長崎など日本国内の戦場だけでなく、ナチス・ドイツのホロコーストをはじめ、中国やフィリピン、ベトナム、カンボジアなどで繰り返された虐殺の現場の痕跡も含んでいる。モノクロ写真が多いため、一見すると荒々しさや古い記録の印象を受けるが、それらが切り取る現実は時代や地域を超えて普遍的な「人間が陥りうる残酷性」を浮彫りにしている。

写真には、撃たれた後のまま放置された遺体や大量殺戮の痕跡など、生々しい場面がそのまま写し取られている。テレビや文章だけでは実感しにくい残虐さや恐怖、そして被害者たちの無念や苦悶が、視覚的な衝撃となって読む者に迫ってくる。単に「戦争は悲惨だ」という一般的なメッセージを超え、「戦場がいかに人を狂わせ、人間性を奪うのか」を克明に示す記録でもある。

そもそも著者は、自らが体験した沖縄戦の教訓を共有するためにこの記録をまとめたと言われている。沖縄は住民を巻き込む地上戦が激しかったゆえに、多くの市民が状況によって加害者・被害者いずれの立場にもなりうるという、複雑な様相を突きつけられた地域である。それを踏まえた上で、本書は「人間が人間でなくなる瞬間」の普遍性を問いかける。極限状況下において、人はなぜここまで残酷になり得るのか。本書にある凄惨な写真や証言は、その問いをより直接的に投げかける。

一方、この写真集は決して「残酷な場面ばかりをセンセーショナルに集めた」だけの本ではない。虐殺された人々の背景、戦争へ突き進む社会構造や政治的思惑なども解説され、歴史的・文化的な文脈の中でジェノサイドがどのように起こったのかを考えさせられる。読み進めることで、加害者と被害者の関係性、国家のプロパガンダや軍部が人々をどのように扇動してきたか、そして悲劇を繰り返さないために何が必要かなど、多角的に思考を促される。

各章の最後には当時の関連資料の要約やキャプションが添えられ、写真が示す悲惨な結果に至った経緯を知る助けになる。ただし、これほど衝撃的な写真が多数収録されているため、読む側の心の準備は必須と言える。子どもや感受性の強い人には閲覧を推奨しない場面も多く、扱われるテーマが沈痛であることから、安易に開くことは避けたほうがよいかもしれない。

また、本書は既に絶版となり、一部の古書市場やインターネットオークション、フリマアプリなどで高額で取引されている。沖縄の地方出版社から刊行され、当時も限定的に流通した事情があり、現在では非常に入手困難になっている。著者の死去後は復刊が熱望されているが、未だ実現していないためプレミア価格がつくケースも多い。

総評

『人間が人間でなくなるとき GENOCIDE』は、戦争や虐殺の生々しい痕跡を真っ向から映し出す、極めてショッキングな写真記録集である。写真と解説を通じて、世界規模で繰り広げられてきた残虐行為を追体験し、「人間性とは何か」「戦争とは何か」を突きつける一冊と言える。入手は困難だが、戦争や沖縄戦研究、あるいは人間の極限行動を学ぶ上で極めて貴重な資料であり、あらためて多くの人に手渡される機会を望まれる作品である。