9人の児童性虐待者
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book > インタビュー > パメラ・D・シュルツ
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アイテム説明
本書『9人の児童性虐待者』は、アメリカの研究者であり、自身も児童期に虐待を受けた経験をもつパメラ・D.シュルツによってまとめられたインタビュー集である。2006年に刊行された本書は、著者自身が被害者として抱えてきた痛切な体験を背景に、9人の加害者への徹底的な対話を行うことで、児童性虐待の実態や、その背景に潜む要因を探ろうとした試みである。
まず、本書の根幹となる問いは「なぜ、彼らは子どもを性的対象として選ぶのか」という点である。著者のシュルツは、児童性的虐待者を“怪物”としてだけ捉えるのではなく、彼らが抱える家族関係や成育環境、コミュニケーション上の問題、さらには社会的背景などを丹念に追いかけることで、その行為に至るまでの過程を探っている。インタビューの中で浮き彫りになるのは、彼らが必ずしも最初から残虐な意図をもって犯行に及ぶのではなく、歪んだ欲望や弱者を支配したいという錯覚が徐々に形成されていくプロセスであると示唆されている点である。これは、行為自体を肯定するものでは決してないが、加害者側の語りや認知を契機に、社会や周囲がどのように介入し予防できるかを考える一助となりうると考えられている。
さらに、本書が注目を集める大きな理由の一つとして、著者自身の被虐待者としての視点が挙げられる。被関係者としての当事者性があるからこそ、踏み込みづらい質問や感情的に揺さぶられる瞬間にも真正面から向き合っている点が本書の特徴である。そうして得られた記録は、どこか冷徹にも見える加害者の言葉をありのままに提示し、読者に強烈な衝撃を与える。中には加害者たちが「楽しかった」「相手の気持ちは考えたことがなかった」などと証言する箇所があり、読む側としては胸を痛めざるを得ない。しかし、このような生々しい記録を知ることは、事件の発生後にその背景を“怪物”という言葉だけで切り捨てず、複合的な原因やシステム自体に目を向けるきっかけを与えているといえよう。
また、アメリカで進められてきたコミュニケーション学や犯罪心理学などの最新知見も多く盛り込まれている。例えば、性犯罪者を取り巻く社会的構造の問題点、司法と医療・福祉の連携不備、インタビュー手法や倫理的配慮の課題など、多角的な観点が丁寧に論じられている点も見逃せない。本書は、いわゆる“読みやすい”作品ではないが、犯罪学だけでなく、社会学、心理学、さらには教育の分野でも重要視される資料といえるだろう。
それと同時に、本書は刊行当初から論議を呼んできた。被害者側の感情にどのように配慮するのか、加害者の声を活字化し公の場にさらす必然性は何か、といった点である。しかし著者は、加害者を取り巻く状況をさらに精密に理解し、再発や連鎖を断ち切るためには、彼らの認知様式や価値観を知る作業が不可欠であることを訴えている。この視点こそが、本書を単なる犯罪実録ではなく、読者に問いかけを行う学術的・批判的研究としての位置づけに押し上げている要因である。
総評
『9人の児童性虐待者』は、何とも重たいテーマに正面から向き合う一冊である。一読するには大きな覚悟を要するが、児童性虐待の実態と原因構造、そして再発防止へ向けた取り組みを考える上で、極めて貴重な資料となっているといえよう。なお、一般ルートでの購入が可能であるため、Relicレベルは1となっている。