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腹腹時計

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book > その他 > 不明

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取引価格目安

200,000円

所有者

不明

アイテム説明

『腹腹時計』は、1974年3月に日本の極左組織である東アジア反日武装戦線の一派・狼班が地下出版した教程本である。本書は爆弾製造の具体的な手順やゲリラ戦法を詳細に解説したもので、同組織が掲げる反日思想の概要やプロパガンダ的要素も含む、極めて危険な内容を含んでいたとされている。

刊行された部数は多くなく、さらに警察当局によって徹底的に押収・排除された背景があるため、現存するオリジナルの印刷版はごくわずかといわれている。本のタイトル「腹腹時計」は、一見すると「腹時計」という一般的な言葉のように思えるが、実際は「ハラハラ(ドキドキ)させる時限爆弾」を意味すると同時に、朝鮮語のハラ体(하라체)という文法表現も掛けあわせられたものである。このネーミングは当時の社会への挑発や意表を突く狙いがあったと考えられている。

内容は大きく前半と後半に分かれ、前半では東アジア反日武装戦線の思想的背景や行動目的、そして社会構造に対する批判が綴られている。後半は爆弾の製造過程や仕掛け方の解説に加え、ゲリラ戦での立ち回り方、捜査機関からの身の隠し方などが細かく記載されており、その徹底ぶりが当時の同調者や他党派の過激勢力から「実用面でも非常に使えるマニュアル」として扱われ、過激派内部では事実上の“標準教科書”として流通していたとも伝えられている。

しかし本書は、反体制運動の実践マニュアルとしての側面だけでなく、作成に至る経緯や印刷場所の特定にも関与し、結果的に組織壊滅につながったという点でも歴史的に大きな意味を持つ。具体的には、本書を発行する過程で使われた文面や活字が行われた犯行声明文と酷似していたことが捜査の決め手となり、メンバーの身元を割り出されるきっかけにもなった。また、本書そのものの流通が違法視されたため、社会的にも強い衝撃を与えただけでなく、爆弾製造に関する過激な記述が問題視され、当局から発禁処分対象の書物として認定された。

本書は当時100円程度の定価で配布されていたとの証言もあるが、現在ではオリジナル版を入手することはほぼ不可能に近い。また、事件の影響により塩素酸塩系の除草剤が製造中止となるなど、本書に記載された内容が社会の規制や法整備にも少なからず波及したとも指摘されている。稀少性と秘密性、さらに極めてセンセーショナルな存在感から、現在では闇市場やコレクターズマーケットで高値がつくこともあると言われ、一部の専門家や研究者の間でその動向が注視されてきた。

歴史的背景としては、日本の新左翼運動が過激化し、国際的にもさまざまなテロリズムが台頭していた1970年代という時代状況の中で、本書が醸し出す“実践的テキスト”としての危険性は格段に高かった。実際に連続企業爆破事件や三菱重工爆破事件などが頻発し、社会不安が広がる中で、警察当局はこの本の摘発に執念を燃やした。このような史実は、当時の日本において政治運動と武力闘争がいかに結びつきやすい状況にあったかを如実に表している。

現在では、この“実物”を目にする機会は限りなく少ない。公共機関や大学などで厳重に保管されている場合もあるが、不用意に公開されることはほとんどない。そのため、研究者や報道関係者など一部の限られた層だけが内容を確認できる貴重資料として扱われている。本書が発行された経緯と、それを取り巻く組織や社会情勢、さらに警察との攻防までも含めると、「腹腹時計」は当時の日本における極左運動の一断面を象徴する歴史物であると言えよう。

総評

『腹腹時計』は、軍事的ノウハウを具体的に示す小冊子でありながら、同時に1970年代日本の過激運動の思想や、その終焉に至るまでの経緯を浮き彫りにする極めて重要なドキュメントである。捜査当局の検挙を招いた書物としても象徴的であり、現在は残存数の希少さからコレクターの間で高い価値を持つ。政治的・思想的な流れだけでなく、安全保障や表現規制の観点から見ても研究対象となり得る点が多く、今後も歴史を紐解く上で語り継がれる稀有な存在である。ただし、現在では腹腹時計vol1がネット上で誰でも閲覧可能(関連リンク参照)であるために、RelicDB上でのレア度はかなり抑えられている。