池袋・母子 餓死日記 覚え書き (全文)

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アイテム説明
本書『池袋・母子 餓死日記 覚え書き (全文)』は、1996年4月に東京都豊島区池袋のアパートで発見された母子の餓死事件を記録した日記を中心にまとめられたものである。亡くなったのは当時77歳の母親と41歳の息子であり、母親が残した生々しい手記が本書の主軸となっている。彼女は夫を早くに亡くし、わずかな年金と貯蓄を切り崩しながら息子と2人暮らしを続けていた。だが生活保護の申請や他者への相談を行わないまま、自力でなんとか現状を乗り越えようとする姿が日記の端々から感じ取れる。
日記は日々の買い物や食事内容、金銭の出入りがこと細かに綴られ、日を追うごとに追いつめられていく心情がはっきりと浮かび上がる。お菓子や菓子パンのように手軽で安価な食料品ばかりを選んでいる点からは、調理をする気力や体力に乏しかった当時の苦しい状況が透けて見える。また身体の痛みや息子の看護に追われる母の姿が、淡々とした文章表現の背後で重い現実感を伴って迫ってくる。
本書が真に注目される理由は、その内容が単に“悲劇の記録”に留まらない点にある。当時、都心の池袋という大都市圏のど真ん中で餓死事件が起きたという衝撃はもちろんだが、この事例を通じて日本の福祉制度や地域の孤立問題が改めて問われることとなった。母親は何度か区役所に手紙を送っていたともいわれるが、支援を深く受け入れないまま息子との生活を優先し、自らを追いつめてしまった背景には、強い家族意識や他者への遠慮、さらには本人の宗教的・精神的要因も考えられている。
1996年、事件を知った豊島区は騒動の渦中で本人の日記を一般公開し、それをもとに公人の友社から本書が初版として刊行された。その後、本書は社会的波紋を呼び、生活保護行政や地域保健の在り方を議論するきっかけの一つとなった。現在は新装版として刊行され、本文には母親が記したありのままの言葉がほぼそのまま収録されている。そこには夫や息子への切実な思い、あるいは自分たちの運命をどこか宿命視するような独特の記述が散見される。追い詰められた生活の全体像と、親子が最期まで“誰にも迷惑をかけない”という信念に縛られた姿が生々しい形で伝わる点は、他に類を見ない資料性と衝撃を伴う読後感をもたらす。
一方、母親が「市販のお惣菜に頼る」「店で買いそろえた菓子パンを食べる」などの描写は、都市部における孤立の実態をも映し出している。料理をする環境や体力を失い、結果的に栄養が偏った中で病気の息子を抱え続けたことが、悲惨な結末へとつながった一因であると考えられる。こうした記録は現代の高齢者孤立、貧困、福祉制度の利用ハードルなどにも通ずる課題を浮き彫りにしており、今日でも読む者に重い問いを突きつける。
総評
本書は“平成の都会における餓死”という衝撃的な事象を、当事者の等身大の言葉で直接知ることができる貴重な資料である。母親が残した手記は文章としては簡素ながら強烈な現実感を持ち、最後の記述へ向かうほど、息の詰まるような孤立と困窮がひしひしと伝わってくる。この事実を読み解くことで、高齢者問題や生活保護のあり方、地域社会におけるコミュニティの役割など、現代にも通じる幅広い課題を浮かび上がらせるだろう。歴史的にも社会学的にも価値の高い一冊であり、生々しく痛烈な事例として読む人それぞれに重く深い思索を促す作品である。なお、一般ルートでの購入が可能であるため、Relicレベルは1となっている。