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深井克美《バラード》

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art > 絵画 > 深井克美

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北海道立近代美術館

アイテム説明

深井克美《バラード》

1973年に制作された油彩作品である。作者の深井克美(1948〜1978)は北海道・函館出身の画家であり、幼少期から結核や脊椎カリエスなどの病を抱えながらも、絵画への情熱を持ち続けた人物として知られている。彼は10代後半から本格的に画家を志し、写実表現を徹底する師・西八郎のもとで絵画技法を学んだ後、自由美術展などで才能を高く評価された。短い生涯のうちに描き上げた作品は多くはないが、強い存在感と詩情を宿しており、一部は「オリオン」や「ランナー(未完)」などのタイトルとともに有名である。

《バラード》は深井の代表作のひとつに数えられている。構図には幻想的かつ演劇的な要素が感じられ、暗闇の中に浮かび上がる人間像や静物が、叙情的な光の効果をともなって描かれているといわれる。深井は制作当時、神秘的な光や闇の表現に強く惹かれており、作品に宗教的・神秘的なニュアンスを織り込むことを試みていたとも推測されている。そのため、《バラード》には静寂のなかに宿る精神性や、見る者を異世界へといざなうようなイメージが色濃く投影されている。

また、深井はカトリック教会との関わりや、身体の痛みを抱えた日常から得た孤独感を、作品に独特の形で落とし込んでいた。彼の作品群の多くに共通するのは、精緻に描写された中にも虚空を感じさせる空間である。そこには、物質的な風景を超えた精神的な奥行きが広がっているとも評される。《バラード》についても、画面を貫くように置かれた人物や象徴的モチーフが、作家の内面を映し出す鏡のような役割を果たしているとみる向きがある。

深井克美は1978年、30歳の若さで自ら命を絶った。多作とはいえないが、アトリエでの日々の苦悩や魂のあり方を絵筆に託し続けた軌跡が、現在も道内外の美術館や個人コレクションに残されている。とりわけ《バラード》は、生への希求と死の影が重なり合う彼の内的視界を象徴する作品であると考えられている。悲劇的ともいえる作家の運命と、純粋に画面に凝縮された熱情があいまって、この作品を言い尽くせないほどの魅力ある存在へと押し上げている。

総評

《バラード》は、深井克美が切り取った孤独と祈り、そして人間の根源的な願望が混ざり合う幻想的な一点である。若くして世を去った画家の思考や感覚が凝縮されており、丁寧な観察の果てに到達した細密性と、象徴的なモチーフの組み合わせが強い印象を残す。深井克美の全作品群の中でも、画家の世界観や技法を代表する重要な作品といえる。