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Artists’ Shit

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カテゴリ

art > 現代アート > ピエロ・マンゾーニ

Level

取引価格目安

30,000,000円

所有者

不明

アイテム説明

概要

「Artists’ Shit」は、1961年にイタリアの前衛芸術家ピエロ・マンゾーニによって制作された挑発的な概念芸術作品である。全90個の鋼鉄製の缶詰に、各缶ごとに30グラムの排泄物が封入されており、缶の寸法は約4.8cm×6.5cmという小型のものである。缶にはイタリア語、英語、フランス語、ドイツ語で製造年月日や内容物の特性(「Artist's Shit」「Contents 30 gr net」「Freshly preserved」「Produced and tinned in May 1961」など)が印字され、表面的には物品としてのパッケージングと同時に、芸術に対する風刺が込められている。

制作の背景と意図

この作品は、芸術家自身の身体や日常的なプロセスを市場価値と結びつけるという、従来の美術観に対する鋭い批判として位置づけられている。マンゾーニは、当時の金の価格(1缶あたり約37ドルに相当)を基準に、芸術作品を評価する社会の風潮や、芸術家の身体・排泄行為が「商品」として扱われる枠組みに対し、あえて逆説的なアプローチをとった。これにより、観る者に対して芸術の価値、意味、そして消費主義に内在する矛盾を問いかけ、議論を巻き起こすことを狙っている。

歴史的経緯と市場での評価

発表当初から「Artists’ Shit」は、その挑発的な内容と概念の先鋭さにより、芸術界や評論家の間で大きな話題となった。マンゾーニは、自身の他の作品である「Artist's Breath」などを通じて、芸術と日常、身体性と商品性を結び付ける実験的な制作活動を展開していた。また、作品の取引においても、オークションで高額な落札例が記録され、1缶あたり数十万から数百万円という価格がつくこともあった。これらは、作品の希少性と歴史的な意義、さらには市場における評価基準を再考させる要素として注目される。

内容物の謎とその影響

作品の内容物については、真偽を巡る議論が長らく続いている。マンゾーニの友人であり協力者の一部は、実際には排泄物ではなくプラスター(石膏)が封入されていると主張している。しかし、ラベルの記述や、作品全体に漂う皮肉なメッセージからは、敢えて曖昧さを保つことで、観る者自身がその真意を問うよう仕向けた意図が感じ取られる。缶自体が鋼鉄製であるため中身を外部から確認することが困難であり、開封することが市場価値を損なうため、内容が永遠に謎に包まれるという点も、作品の神秘性と評価を高める要因となっている。

現代アートにおける位置づけ

「Artists’ Shit」は、コンセプチュアル・アートや前衛芸術の中でも特に象徴的な作品として、今日に至るまで議論の対象となっている。芸術家自身の身体、商品の価値、消費文化への批判といった多層的なテーマを内包し、従来の美術産業や展示方法、さらには芸術の評価基準に挑戦するものである。市場での高額な取引事例は、この作品が単に一つの物品ではなく、時代や社会、そして芸術そのものを反映する重要なアイコンであることを証明している。

総評

「Artists’ Shit」は、1960年代の芸術界における枠組みそのものへの挑戦であり、消費主義や市場メカニズムに対する批判が凝縮された極めて挑発的な作品である。ピエロ・マンゾーニの革新的な発想は、芸術と日常、創造と評価の境界を曖昧にし、今日における前衛芸術の歴史において不朽の名作として位置づけられている。作品に内包された多層的な意味は、現代社会とその消費文化を問い直す上で、今後も多くの議論と再評価の対象となるであろう。

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