生者の心における死の物理的な不可能性

カテゴリ
art > 現代アート > ダミアン・ハースト
Level
取引価格目安
1,000,000,000円
所有者
Steven A. Cohen
アイテム説明
概要
'The Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Livin'『生者の心における死の物理的な不可能性』は、イギリスの現代美術家ダミアン・ハーストが1991年に制作したコンセプチュアル・アート作品である。巨大なガラスケースに満たされたホルマリン溶液のなかに、全長約4.3メートルのイタチザメが浮かぶように配置されているのが最大の特徴である。チャールズ・サーチの依頼を受けて製作され、1992年にサーチ・ギャラリーで初めて公開された際は大きな衝撃を与えた。サメという捕食者としての強いイメージを持つ生物が、ホルマリン液のなかで無言のまま迫ってくる様子は、多くの観客や批評家に生と死の境界について考えるきっかけを提供した。
歴史的背景と価値
この作品は、1990年代のイギリス美術を象徴するムーブメント「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)」を代表する作品のひとつとされている。YBA世代のアーティストたちは、伝統的な美術の枠組みに挑戦する作品を数多く生み出し、社会的にも大きな話題を呼んだ。とりわけハーストは、生と死を題材にしたショッキングな作品を連発し、美術界のみならず一般層にも強い印象を残している。
本作ではイタチザメを捕獲してそのままホルマリン漬けにしたため、動物愛護の観点からピックアップされることもしばしばあった。また、保存技術の問題によりサメが劣化し、後年に新しい個体へと置き換えられたことでも有名である。それでもなお、この作品は「生者」である観衆が「死」という概念に接するうえで欠かせない、象徴的なアートとして認識されている。オークションやコレクター間でも取引額が高騰し、結果的に「最も物議を醸しながらも評価された現代アート作品のひとつ」として位置づけられた。
なぜ希少性が高いのか
まず、実寸大のサメを使った展示という大胆な手法が極めて特異であり、他に類を見ないスケール感と視覚的インパクトを持つ点が希少性の根拠のひとつになっている。また、YBAを代表する作品として国際的な知名度を獲得した歴史的経緯や、複数回にわたって美術市場で高額な価格がついた事実が、その価値の高さを支えている。さらに、生きていたサメを作品化する行為自体が多くの論争を呼び、作品の存在そのものがアートにおける新たな価値観の提示と見なされ続けている。
背景ストーリー
この作品の制作にあたり、ハーストは捕獲費用も含め、当時若手アーティストとしては異例のレベルで多額の資金を投じたと言われている。依頼主であるサーチは、ハーストに「どんなものでもよいから作ってくれ」と資金提供を申し出たとされ、そこから生まれたのがイタチザメを使ったホルマリン漬けの作品だった。展示初期から世間の注目を集め、ターナー賞へのノミネートなどを通じて評価が高まるにつれ、市場価格も跳ね上がった。後には著名コレクターのスティーブン・A・コーヘンが所有者となったとも報じられ、作品の知名度はさらに上昇している。
総評
生と死、そして鑑賞者の心理へ直接訴えかける作品として、「生者の心における死の物理的な不可能性」は現代アートの中でも特別な存在感を持つ。恐怖や神秘、生命の有限性に対する戸惑いといった、私たちが普段心の奥へ押しやっている問いを、サメの鋭い眼差しとともに突きつけてくる。反面、作品そのものが時代を代表するアイコンになったことで、オークションで高額取引される投機的な面もクローズアップされ続けてきた。しかしこの希少性と衝撃は、アートがどのようにして新しい価値を生み出し、社会に問いを投げかけるかを象徴的に示しているといえるだろう。