新宝島 美本 手塚治虫

カテゴリ
book > 漫画 > 手塚治虫
Level
取引価格目安
5,000,000円
所有者
不明
アイテム説明
新宝島とは
1947年に出版された、手塚治虫の長編単行本デビュー作である。原作構成を酒井七馬が手がけ、作画を無名時代の手塚治虫が担当した作品として知られている。戦後まもない日本において、それまでの四コマ漫画や単調な画面構成とは一線を画す映画的手法が用いられたことで、大きな衝撃と話題を呼んだといわれている。刊行直後から飛ぶように売れ、推定40万部に達したともされるほどのベストセラーであり、戦後漫画ブームを決定づけたエポックメイキングな存在である。
当時の漫画としては珍しい200ページ超の大ボリュームと斬新なコマ割り、ストーリー進行に合わせた画面演出など、映画の技法を取り入れたドラマチックな描写が特徴的である。タイトルにもある「宝島」の要素のほかに、ロビンソン・クルーソー、ターザンを組み合わせたような冒険活劇と評されるが、実際には原案作業時に大幅な改変が加えられたため、手塚治虫が初稿で構想していた内容と刊行時の内容には相違点が多いといわれている。
この相違点の背景には、出版元となる育英出版との契約でページ数の制限があり、60ページ以上が削除されたことや、手塚治虫自身に無断で酒井七馬がセリフや絵を改変したことが挙げられている。このため、後年に刊行された講談社版の手塚治虫漫画全集に収録される際には、手塚治虫本人が大幅に描き直しを行ったリメイク版が収録されることになった。これらの経緯から、手塚自身は「新宝島」は自分の本来の作品とは異なる、という趣旨の発言を残している。
とはいえ、本作が日本漫画史に与えた影響は極めて大きいと考えられている。特に映画的な演出や場面の切り替え、迫力あるカメラワークを想起させるコマ運びなどは、当時まだ一般的でなかったため、若い読者や後進の漫画家たちに強いインスピレーションを与えたとされている。実際に、藤子不二雄や石ノ森章太郎、ちばてつや、赤塚不二夫といった後に日本漫画を牽引する数多くの作家たちが、「新宝島」を読んだときの衝撃を繰り返し語っている。
また、多彩な版や改稿が存在する点もコレクターズ・アイテムとしての価値を高めている要因である。育英出版から刊行された初版は現存数が少なく、オリジナル版は長らく「幻の一冊」と呼ばれていた。手塚治虫生前には復刻を固辞していたこともあり、公にはほぼ出回ることがなかった。このため、骨董市や古書市場などで非常に高額な取引価格がつくことでも話題となっている。2009年以降、「オリジナル復刻版」や「手塚治虫文庫全集版」などの形で刊行され、現代でも内容を比較的たやすく確認できるようになっているが、それらは厳密にいえば当時の初版ままの状態ではなく、微妙な差異を含む。
ストーリーは単純な冒険譚として読めるが、作品全体に宿るスピード感や躍動感は、まだ戦後の混乱が色濃く残る1947年に、読者へ新時代の息吹を届けた重要な漫画表現である。主人公のピート少年と船長が宝島へ向かう航海の途中で海賊ボアールに襲われるなど、一難去ってまた一難の展開が続く。ジャングルの王者バロンや、ピートが拾った犬・パンの活躍も印象的であり、戦後に新しいストーリーマンガが登場した象徴的な作品と言える。
特筆すべきは、のちに手塚作品で活躍するスターシステムの原型ともいえる人物が本作から登場している点である。たとえば、ケン一少年の役割を担うピートや、ブタモ・マケルの原型とされる船長などが、他の手塚作品にも別の名前や設定で再登場している。こうしたキャラクター使い回し(スター・システム)は手塚漫画の有名な特徴であるが、本作ではその草創期の姿を見ることができる。
総評
戦後日本の漫画史を語る上で「新宝島」は外せない一冊である。長編ストーリーを単行本として世に出した点だけでも画期的であり、そこに映画のテクニックを応用した表現手法が加わったことで、読者に新しい物語体験をもたらしたと考えられている。手塚治虫がのちに生み出す多くの名作の原点を見ることができる作品であり、その歴史的・文化的価値は計り知れないほど高い。現在も多くの復刻版や研究書が刊行されており、漫画好きはもちろん、日本のポップカルチャーに興味を持つ者にとって必読の一冊といえよう。