非現実の王国で

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アイテム説明
『非現実の王国で』は、孤高の人物ヘンリー・ダーガーが約60年にわたり書き続けた全15巻・15,000ページ以上に及ぶとされる長大な物語である。正式名称は「非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコ・アンジェリニアン戦争の嵐の物語」で、アウトサイダー・アートの代表例とされる。
物語の主軸には、子供奴隷制を敷く軍事国家グランデリニアとカトリック国家アビエニアの苛烈な戦争があり、そこに7人の少女戦士ヴィヴィアン・ガールズが登場する。彼女たちは圧倒的不利な状況をはねのけ、大人たちの暴虐に苦しむ子供奴隷を解放しようと奮戦するのが大きな流れである。一方で描写には男性器を持つ少女や拷問シーンなどが現れ、作家本人の孤独や未知への憧れが濃厚に投影されているともいわれる。
ダーガーは1892年にシカゴで生まれ、幼くして母を失い、その後は孤児院や知的障害児施設で過酷な暮らしを送ったとされる。10代後半で施設からの脱走に成功し、以後は病院の掃除係や皿洗いなどの職に就きながら生計を立てた。人付き合いを嫌い、ゴミ置き場から拾い集めた雑誌・写真をトレースして絵の資料にし、ひたすら自室で物語と挿絵を生み出し続けたという。その細密画は3メートルを超す巻物状の作品もあり、鮮やかな色彩とコラージュ的技法が特徴的である。
彼の作品が世に知られるきっかけは、暮らしていたアパートの大家であったネイサン・ラーナーが、ダーガーが老人ホームへ移る直前に部屋の片付けを行った際に多数の原稿と挿絵を発見したことによる。ダーガー自身は自分の作品を「すべて捨ててくれ」とだけ言い残しており、公に発表する意図はなかったとされる。しかしラーナー夫妻がその稀少価値を見抜き、保存および作品の整理研究を重ねた結果、死後にアウトサイダー・アートの金字塔として大きな注目を集めるに至った。
現在、この物語の全文は一度も刊行されておらず、研究者による抜粋や複製画集のみが断片的に出版されている。一部挿絵は美術館や個人愛好家の手に渡り、オークションでも高値をつけて取引される例がある。一方で全体像は依然として未解明であり、結末部分も含めて未製本の束に残されているという。
総評
『非現実の王国で』は、想像力の無尽蔵な力を示す激烈な物語である。長編小説としての文字数、挿絵の枚数、そして作者の波乱に富む生涯は、いずれも常軌を逸している。社会から離れた場所で生まれた“切実な想像世界”が、死後に巨匠の如く扱われるという事実は、アートの本質を問い直す格好の題材といえる。