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Serial experiments lain(PlayStation)

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カテゴリ

game > 鬱ゲー > 不明

Level

取引価格目安

80,000円

所有者

不特定多数

アイテム説明

『serial experiments lain(PlayStation)』は、1998年11月26日にパイオニアLDCから発売されたプレイステーション用ソフトである。ジャンルは“アタッチメントソフトウェア”と銘打たれ、他のゲームにみられるような明確な勝敗やステージ攻略といった概念がほとんど存在しない点が大きな特徴である。本作では、ネットワークの記憶領域に蓄積された断片的な音声ファイルや映像ファイルを再生していくことで、主人公である少女・岩倉玲音(いわくられいん)の周囲で起きる出来事や、彼女自身の内面に迫る流れとなっている。

このゲーム版『serial experiments lain』は、同時期に放送されたテレビアニメや雑誌連載と合わせて進められたメディアミックス企画の一部であり、当時としては画期的な試みとされている。同一の世界観やキャラクターを共有しながらも、ゲーム版・アニメ版・雑誌連載版で内容が補完関係にある点が特筆に値する。ゲーム版では、プレイヤーは実質“ファイルの再生”しか行えず、そこに収められたボイスドラマやムービーを繰り返し視聴することで、新たにアクセス可能になるデータを入手する仕組みである。それらのファイルは時系列や真偽がはっきりせず、さらに登場人物の一部がファイルを改竄している可能性も示唆されており、一見しただけでは全貌の把握が難しい。プレイヤーは点在する断片情報を繫ぎ合わせ、玲音にまつわる真実へと近付いていく。

そもそも本作の中心にいる主人公・玲音は、精神的に不安定な状態にある少女として描かれている。カウンセラーとの面談記録や自室の観察映像、そして独白風の日記、人々とのやりとりが不穏な断片として次々と現れるため、プレイヤーは彼女の内面における暗い部分や周囲の不可解な動きに巻き込まれる感覚を味わうことになる。ユーザーは、時に注意深く、時に試行錯誤しながらファイルを再生していくが、すべて再生し終わっても“真相は何だったのか”が明快に語られるわけではない。物語の結末にあたるファイルを開いたとしても、そこで提示されるのは結論というよりはさらなる謎である。そのため、ゲームとしての“攻略”というよりは、複数の断片を鑑賞・分析し、自分なりの解釈を導くことが醍醐味といえる。

一方、メディアミックスとして同年に放送されていたテレビアニメ版では、“リアルワールド”と“ワイヤード(ネット上の仮想空間)”の境界が曖昧になっていく描写や、アイデンティティを巡るテーマなどが提示されていた。ゲーム版でもやはりコンピュータネットワークと少女・玲音の関係が物語を支える根幹であるが、アニメ版との差異として、ゲーム版ではより内省的かつサイコホラー的な空気が濃厚になっている。具体的には、グロテスクとまではいかないまでも暴力や死を連想させる表現が含まれているほか、幻覚や幻想ともとれる描写が散在し、プレイする者の精神にじわじわと訴えかけてくる。

なぜそこまで希少性が高いのか。その背景には、本作が当時でもきわめて限定的な出荷数であったことに加え、後年の再版や移植が一切行われなかったという事情がある。プレイステーションアーカイブスなどでの配信もなく、現在では中古市場やオークションでしか入手が難しい。その結果、近年でも四桁を大きく超えるプレミア価格での取引が珍しくなく、中古状態や帯付きかどうか、未開封品かどうかでさらに価格が変動している。いわゆる“鬱ゲー”として話題になることも多く、好事家が購入を望む一方でそもそも数が非常に少ないため、出回るたびに高騰すると言われている。

発売当時の1990年代後半は、いまほど家庭用ゲーム機のラインナップが豊富でなかった時代でもある。その中で“ゲーム性”というよりは“考察・鑑賞”を主体とした実験的作品が登場したこと自体が非常に珍しく、アニメや雑誌連載との同時進行という挑戦も相まって、後世に語り継がれる独特のインパクトを残した。本作の影響は、後にリリースされた会話や映像による“情報断片収集型”アドベンチャーゲームの方向性にも微妙に波及したとも言われている。

総評

プレイステーション版『serial experiments lain』は、他では得がたい実験的かつ叙情的な体験を提供する名品である。とはいえ、ゲームとしてのわかりやすい快感は薄く、プレイヤーにかなりの忍耐力と想像力を要求するため、人によって好き嫌いが大きく分かれる作品でもある。アニメ版とあわせて遊ぶことで一層深い没入感が得られるが、ギミックの多くが不可逆の断片として提示されるため、最後まで謎を抱えたままプレイを終える人も少なくない。しかし、この割り切れない余韻こそが本作の最大の魅力であり、リリースから25年以上を経た現在でも世界中でカルト的な支持を集め続けている理由のひとつと言えるだろう。